十一月の夜。テーブルの上に、就学時健康診断の結果の通知が置いてあります。
たとえば、こんな場面を想像してください。通知に「異常なし」と書いてあっても、会場で固まっていた子どもの姿が頭から離れない。あるいは、「医療機関の受診をおすすめします」と書いてある。どちらの通知を開いた夜でも、親が最初にやることは変わりません。
私の子どもは、家でも園でもよく笑う、ひょうきんな子です。ただ、初めての場所と初めての人の前では固まり、声が出なくなります。音の大きい場所では、耳をふさぐこともあります。
9月上旬に就学時健康診断の案内が届いてから、健診のあとに何が起きるのかを、条文と公的資料で調べました。本記事は、当日の体験談ではなく、調べて整理した内容です。
先に結論を書きます。健診の結果は、就学先を決める判定ではありません。会場で固まったことも、通知に書かれた内容も、子どもの将来を決めるものではありません。通知が届いた夜に親がやることを、3つに絞って書きます。
健診の前の準備と当日の一言は、繊細な子の小学校入学準備|年長の秋にパパが動く5つの手順と伝え方にまとめています。本記事は、健診が終わったあとの動き方に絞ります。
結論|結果の通知は「判定」ではなく、父親(母親)が動き始める合図です
就学時健康診断は、合格か不合格かを決める試験ではありません。文部科学省の資料は、就学時の健康診断を、疾病や異常の疑いがあるかという視点で選び出す「スクリーニング」の性格をもつものと説明しています。
選び出すための健診ですから、会場で固まって声が出なかったことは、診断でも評価でもありません。通知が届いた夜に、親がやることは次の3つです。
- 通知を読み、日付・連絡先・期限を書き出す
- 子どもには、評価ではなく事実を伝える。通知の内容を、子どもに答えさせない
- 妻(夫)と事実だけを先に共有し、教育委員会に1本だけ電話をする。聞くことは「就学相談はいつまでに何ができるか」の1点です
就学時健診の結果は、就学先を決める判定ではありません
健診の目的は「選び出すこと」で、診断ではありません
就学時健康診断は、学校保健安全法第11条にもとづき、市区町村の教育委員会が行う健康診断です。実施の時期は、学校保健安全法施行令第1条で、学齢簿が作成されたあと、翌学年の初めから4か月前(就学の手続きに支障がない場合は3か月前)までの間と定められています。文部科学省の資料では、10〜12月ごろの実施と整理されています。
検査項目は、学校保健安全法施行令第2条に、次の7つが書かれています。
| 号 | 検査項目(施行令第2条) |
|---|---|
| 一 | 栄養状態 |
| 二 | 脊柱及び胸郭の疾病及び異常の有無 |
| 三 | 視力及び聴力 |
| 四 | 眼の疾病及び異常の有無 |
| 五 | 耳鼻咽頭疾患及び皮膚疾患の有無 |
| 六 | 歯及び口腔の疾病及び異常の有無 |
| 七 | その他の疾病及び異常の有無 |
条文に、「発達」や「性格」という項目はありません。ただし、自治体によっては、就学時健康診断の際に、知的発達の状況を把握する発達検査を各小学校で行っています(北海道江別市の案内の例)。発達検査があるかどうかは、自治体から届く案内で確認できます。
結果が出たあとに起きること
健診の結果は、保護者に通知されます。通知の形や時期は、自治体ごとに違います。
結果のあとに教育委員会がやることは、学校保健安全法第12条に書かれています。健診の結果にもとづいて、治療の勧告、保健上必要な助言、就学に関する指導などの適切な措置をとる、という内容です。
文部科学省の資料では、疾病や異常の疑いがある場合に、医療機関の受診をすすめたり、特別支援学校への就学などについて指導を行ったりする、と整理されています。
もうひとつ、親が知っておきたい流れがあります。就学時健康診断票は、教育委員会から、入学する学校の校長へ送られます。施行令第4条第2項で、翌学年の初めから15日前までに送ると決まっています。健診の記録は、4月の前に学校へ届きます。
就学先は、健診ではなく「合意形成」で決まります
文部科学省は、障害のある子どもの就学先について、本人・保護者の意見を可能な限り尊重し、教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことを原則としています。そのうえで、障害の状態や必要となる支援の内容、教育学などの専門的見地といった総合的な観点を踏まえて、市町村教育委員会が決定します。
つまり、健診の結果だけで就学先が決まることはありません。保護者は、決定を待つだけの立場ではなく、意見を述べて合意形成に加わる立場です。通知が届いたあとの動き方は、この前提から組み立てます。
固まったのは、親の育て方でも、子どもの力不足でもありません
就学時健康診断の会場には、固まりやすい条件がそろっています。
- 初めて行く場所
- 初めて会う大人
- 順番を待つ時間
- 周囲の子どもや保護者の声
- 短い時間で、次々に違う検査を受ける流れ
初めての場所と初めての人の前で固まる子は、条件が重なるほど、普段の力を出しにくくなります。私の子どもがそうです。家では明るくよく笑うのに、初対面の大人の前では、声が出なくなります。
固まった原因は、育て方でも、子どもの能力でもなく、場面の条件です。
私は福祉の現場で、子どもの様子を関係者のあいだで共有する仕事をしています。学校や園で「特に問題ありません」と言われる子ほど、枠のない時間に崩れることがある、と感じています。
場面が変わると、子どもの見え方は大きく変わります。一つの場面の様子だけで、その子の全体は決まりません。
繊細な子と父親の関わり方の全体像は、【HSC】繊細な子とパパの関わり方|父親にできる5つのことにまとめています。
通知が届いた夜にやる3つ
1つ目|通知を読み、日付・連絡先・期限を書き出す
通知を開いたら、内容の良し悪しを判断する前に、次の4点を紙かスマートフォンのメモに書き出します。
- 結果の区分(所見の有無、受診や相談をすすめる記載の有無)
- 問い合わせ先の部署名と電話番号
- 受診や相談の期限
- 次に、何かを提出する必要があるか
判断は、書き出したあとにします。通知を読んだ直後は、「固まったせいだ」と結びつけたくなります。書き出す作業が、事実と気持ちを分けてくれます。
2つ目|子どもには、評価ではなく事実を伝える
会場の様子を、子どもに振り返らせる必要はありません。固まった場面を言葉で説明させると、「うまくできなかった」という記憶だけが残りやすい、と私は考えています。
| 避けたい言い方 | 渡したい言い方 |
|---|---|
| 「なんであそこで固まったの」 | 「知らない場所は、体がびっくりするよね。終わったから、もう大丈夫」 |
| 「次はちゃんと返事しようね」 | 「行ってきたね。おつかれさま」 |
| 「先生にどう思われたかな」 | 子どもには言わない。親の不安は、パートナーや園の先生に話す |
通知に受診などの指示がある場合は、子どもに必要な分だけ、事実を短く伝えます。たとえば歯の受診が必要なら、「歯医者さんで、歯を見てもらうよ」のように、場所とやることだけを伝えます。
3つ目|妻(夫)と事実を先に共有し、感想は後にする
通知の内容を、パートナーに伝える順番も決めておきます。先に事実、あとに感想です。
「結果の通知が届いた。書いてある内容を、一緒に読みたい。今夜は判断せず、問い合わせ先と期限だけ決めよう」
一人で考え続けると、想像が悪い方向に広がりやすい、と感じる人が多いです。事実を2人で読んでから、気持ちを話します。通っている園の先生にも、日常の様子を聞いておくと、判断の材料が増えます。園への伝え方は、繊細な子の登園しぶり|HSCが保育園を嫌がる理由とパパの動き方にも書きました。
通知の内容別|父親(母親)が次にやること
通知の形は自治体で違います。ここでは、状況を4つに分けます。
| 状況 | 起きていること | 次にやること |
|---|---|---|
| 特に記載はないが、当日の様子や日常の困りごとが気になる | 健診は選び出しの場で、日常の困りごとを見る場ではない | 園の先生に日常の様子を聞く。気になる場合は、教育委員会に就学相談の時期と申込み方法を確認する |
| 歯科・眼科・耳鼻咽喉科など、体の項目で受診をすすめられた | 施行令第2条の検査項目にもとづく所見 | 通知に書かれた期限までに受診する。結果の伝え方は、教育委員会か入学予定の学校に確認する |
| 就学相談や教育相談をすすめられた、または様子について連絡があった | 就学に関する助言や指導が行われる流れ(法第12条) | 断る前に、相談の内容と日程を確認する。相談は就学先を一方的に決める場ではなく、合意形成のための場 |
| 通知には何も書かれていないが、普段から困りごとが続いている | 健診の結果とは別に、保護者から相談できる | 多くの自治体で、保護者から就学相談を申し込めます。手続きは自治体で違うため、教育委員会に確認する |
固まったことが気になるとき|就学相談につなぐかどうか
つなぐかどうかを決める3つの問い
就学相談につなぐかどうかで迷う親は多いはずです。判断の材料を、3つの問いにします。
- 初めての場面で固まる様子は、慣れると薄れているか(家・園での様子)
- 園の先生から見て、集団の中で困っている様子があるか
- 子ども本人が、特定の場面を避けたがる、体調に出るなど、困っている様子があるか
どれか1つでも気になるなら、相談してよい段階です。相談は、困りごとが大きくなってから使うものではありません。早い段階から教育相談を受け付けている自治体もあります。
就学相談は、診断でも、就学先の決定でもありません
就学相談は、子どもの様子や必要な支援を、保護者と教育委員会、学校などが一緒に整理する場です。相談を受けたから特別支援学級に決まる、ということはありません。就学先は、先に書いたとおり、本人・保護者の意見を可能な限り尊重した合意形成を原則として、最終的に市町村教育委員会が決定します(文部科学省)。
相談の中身や進め方は、自治体ごとに違います。
時期は自治体で違うので、先に1本だけ聞く
就学相談の申込みの期限は、自治体によっては、就学時健康診断の時期と近いことがあります。通知が届いたら、早めに次の一言で確認します。
「就学時健診のあと、就学相談を考えています。今年度の申込みの締め切りと、申込み後の流れを教えてください」
聞くだけで、相談を申し込む約束にはなりません。聞くことで、選べる時間がいつまであるかが分かります。
相談先
- 市区町村の教育委員会(就学相談の窓口。部署名は自治体で違います)
- 通っている園(日常の様子を、第三者の目で聞けます)
- 市区町村の保健センター(発達や子育ての相談)
- かかりつけの小児科(体調や発達で気になることがある場合)
夜に眠れないほど不安が強いときは、一人で抱えず、市区町村の子育て相談の窓口にも話してかまいません。
学校に何が渡るのか|健診票と、父親(母親)が先に渡せるもの
先に書いたとおり、就学時健康診断票は、教育委員会から入学する学校の校長へ送られます。学校は、健診の記録を受け取ります。
一方で、普段の様子や、子どもが安心できる関わり方は、健診票には載りません。親が渡さなければ、学校には届きません。
初めての場所で固まること、大きな音が苦手なこと、どう声をかけると動きやすいか。この3つをA4一枚にまとめる方法は、繊細な子の小学校入学準備|年長の秋にパパが動く5つの手順と伝え方に書きました。
通知のあとにやってしまいがちな3つ
- 通知の内容を、子どもに何度も聞く、言わせる:子どもが責められていると受け取ります。伝えるのは、必要な分だけ、事実だけです
- 健診の話をくり返して、慣れさせようとする:健診は終わった行事です。次に慣れさせたい相手は、4月の学校です。通学路を歩くなど、学校に向けた準備に切り替えます
- 結果を一人で抱え込み、妻にも園にも話さない:判断の材料が減ります。事実だけでも、共有します
よくある質問(FAQ)
Q.就学時健診で固まったり落ち着きがなかったら、通常の学級に入れないのですか?
A.健診の結果だけで、就学先が決まることはありません。文部科学省は、就学先を、本人・保護者の意見を可能な限り尊重した合意形成を原則として、総合的な観点から市町村教育委員会が決定する、としています。
Q.就学相談を受けると、特別支援学級に決まりますか?
A.相談を受けただけで決まることはありません。相談は、子どもの様子と必要な支援を整理する場です。就学先の決定の考え方は、先に書いた合意形成が原則です。
Q.就学時健診を受けられなかった場合は、どうなりますか?
A.別の日に受けられるかどうかは、自治体で対応が違います。案内に書かれた連絡先、または教育委員会に、早めに連絡して確認します。
Q.発達検査は、必ず行われますか?
A.条文に、発達検査という項目はありません。自治体によっては、健診の際に発達検査を行っています。行われるかどうかは、案内で確認します。
まとめ|通知が届いたら、まず1本だけ電話を
- 就学時健康診断は、選び出しのための健診で、就学先の判定ではありません
- 就学先は、本人・保護者の意見を可能な限り尊重した合意形成を原則として決まります
- 固まった原因は、育て方でも、子どもの力不足でもなく、場面の条件です
- 通知が届いた夜は、書き出す、事実を伝える、妻と共有する、の3つだけにします
次にやる一つは、教育委員会への電話です。聞くことは、「就学相談の締め切りと、申込み後の流れ」の1点だけです。判断は、答えを聞いたあとで十分に間に合います。
健診の前の準備と、4月に向けた全体の手順は、繊細な子の小学校入学準備|年長の秋にパパが動く5つの手順と伝え方で整理しています。入学後の放課後の過ごし方が気になる人は、繊細な子と学童|HSCの子が消耗しない放課後の選び方と見学で見る6つのことも参考にしてください。